骨と関節について知ろう

亜脱性股関節症 股関節部の痛み、動きの制限、関節の機能障害

手術はいつ受けたらよいのでしょう?

亜脱性股関節症とは、臼蓋形成不全があって股関節の咬みあわせが浅いために、正常な咬みあわせの股関節よりも、老化が早く起きてきてしまい、痛みをおこす病気、と言い換えることができるでしょう。
関節がどのくらいの速さで老化していくかには、大きく分けて2つの要因が考えられます。
一つは形態の問題で、もう一つが質の問題です。股関節は骨盤側に臼蓋というお椀を斜めに伏せたような窪みがあり、その窪みに大腿骨の一番上の大腿骨頭という球状の部分がはまり込んでできています。
亜脱性股関節症ではこの臼蓋の窪みが浅く、大腿骨頭がきちんとはまり込んでいず、はみ出し気味でかみ合っているために、股関節での力の伝達が効率的に行えない状態が常に存在します。
このような状態ですと、股関節の老化(退行性変性といいます)が早く進み、関節軟骨(後述します)がすり減って痛みをおこすようになります。
亜脱性という名前はこの形態異常を示すものです。
一方、質というのは関節軟骨の丈夫さといってもいいでしょう。
関節軟骨とは、互いにこすれあっている骨の表面を被っている2ミリ程度の厚さの膜状の組織で、関節が滑らかに痛みなく動くために必要不可欠な潤滑と衝撃吸収という重要な役割を担う組織です。
股関節の場合は、臼蓋の窪み側の骨の表面と大腿骨頭の骨の表面を被っています。
この関節軟骨の丈夫さ、老化の進みにくさには個人差があるようです。
つまり、同じ形の股関節であっても、関節症になっていく人といかない人がいるのです。

図1 69歳女性 右股関節痛での初診時

図1は69歳の女性の股関節X線写真です。臼蓋形成不全の程度が強く、亜脱臼も認められるのですが、69歳になるまで、無症状でした。
69歳になって初めて股関節痛を自覚し当院を初診されたのです。
この方の臼蓋形成不全の程度はCE角がプラス1度、臼蓋傾斜角が27度と決して軽い程度ではありません。
しかし、初診時の症状は軽く、長歩きをすると少し痛いという程度でした。
身長150センチ、体重70キロとかなりな肥満で、その点でも股関節には不利な条件でした。減量をお願いして経過を診させていただきました。

図2 74歳時 右股関節痛軽度

図2はこの方の74歳時のX線写真です。
残念ながら減量は成功しませんでしたが、股関節の症状はほとんどなく、X線上も少しは悪化していますがまだ関節の隙間は保たれています(関節軟骨がすり減っていないことを示しています)。
この方はとても珍しい方だと思うのですが、極めて不利な形の股関節(亜脱性)と体型をしているにもかかわらず、69歳まで無症状で、その後も74歳の現在に至るまで軽い症状のみで経過しています。
何故でしょうか。
それはこの方がとても丈夫で、質の良い、老化しづらい関節軟骨を持っているからだと推測されます。即ち、この方は形態の悪さをものともしないスーパーな関節軟骨を持っていると言えます。そのため過酷な条件下でも、69歳まで無症状で過ごすことができ、その後の進行も極めてゆっくりで、74歳の現在もごく軽い症状のみで普通に生活できているのです。
以上のことを踏まえて、亜脱性股関節症に対する手術治療をいつ受けたらよいのかについて考えてみましょう。
現在のところ関節軟骨の質を直接変えるような方法はありません。
現在一般的に行われている手術は、関節の形態を変えて正常な形に近づける手術と、関節軟骨の代わりに人工の代替物によってこすり合わせをさせる人工関節置換術が主なものです。
手術法によってどのような時期に受けるべきかが異なりますので、まずは正常な形に近づける手術について考えてみましょう。
寛骨臼回転骨切り術(RAO)という手術法があります。
この手術は臼蓋形成不全の股関節の臼蓋部分の骨盤を丸くくり抜くように骨を切って、咬みあわせが深くなるように回転させてから骨をつなぎなおして、正常な形に近づける手術です。
臼蓋形成不全という形態異常があればすべての例で正常に近づける手術をする方がよい、とは限らないことは、前述した例をみれば明らかです。

図3 37歳女性 右股関節痛 手術前

図3は、37歳の女性のX線写真です。
右側に左側よりも程度の強い臼蓋形成不全が認められます。
右股関節には進行性の症状があり、寛骨臼回転骨切り術を行いました。
手術後右股関節の症状は消失しましたが、3年後くらいから左股関節痛が出てきました。
この症状も進行性であることが確かめられたので左側にも同じ手術をお勧めしていたのですが、いろいろな事情で手術を受けられることなく、受診もされずに、股関節痛をかかえながら仕事を続けておられました。
しかし19年後に左股関節痛のために仕事ができなくなり受診されました。

図4 6歳左股関節痛が著明、右股関節痛はない

図4がその時のX線写真です。
右側は良い状態が保たれていますが、左側は関節軟骨がすり減って関節の隙間が消失しています。股関節症の末期という状態で、症状も強く人工関節手術を受けていただきました。
結局、この方の関節軟骨は、形態の不利がなければ長持ちする程度のごく普通の質であって、形態異常をものともしないスーパー関節軟骨ではなかったと言えます。
そしてそのことは症状が教えていてくれたのでした。
形態異常の程度と関節軟骨の丈夫さの程度の組み合わせは様々でしょう。

体重や筋力、仕事の種類も影響を与える要因ですが、これらも人によって様々です。
ある一人の人の条件下で、関節が症状を出し始め、徐々に進行していき始める年齢も様々ということになるでしょう。
10代のこともあるでしょうし、50代のこともあります。
繰り返しになりますが、寛骨臼回転骨切り術(RAO)は、年齢にかかわらず(60歳以上ではほとんどしませんが)、X線で臼蓋形成不全があって、それに起因する股関節の症状があって、その症状が数年にわたり進行していることが確かめられたならば、できるだけ早い時期に受けるべきと考えます。
次に人工関節手術の場合について考えてみましょう。
人工関節手術は、既に進行してしまった股関節症の痛みに対してする手術と考えるべきです。つまり、痛くなければしなくていい手術だということです。
痛くてまともに歩けないとか、毎日鎮痛薬を飲んでいるが買い物に行くのも億劫だとか、痛みが活動度を大きく阻害しているのであれば、少々若くても人工関節手術を受けるべきです。
時々、人工関節手術は年齢が高くなってから受けたほうがいいからといって、ただただ痛みを我慢して暮らしておられる方がいらっしゃいます。
既に活動度が低くなるほど痛くなっている方が手術を先延ばしにしてもいいことはありません。
活動度が低くなると、筋力が落ちていきます。
筋力だけではなく人工関節の土台となる骨も痩せていきます。
長持ちする人工関節手術をするうえで、土台となる骨が丈夫かどうかは大変重要なことです。
骨が弱くならないうちに人工関節手術を受けた方が、痛いのを我慢して我慢して数年間先延ばししてから手術を受けるよりも有利な状態の人工関節が入ることになるでしょう。
逆に、X線上でどんなに股関節症が進行していようとも、痛みが軽くて、毎日の生活がほぼ制限なく送れていれば、筋力も落ちないし、骨も痩せていかないわけですから、人工関節手術はする必要がありません。
亜脱性股関節症の治療は手術だけではありません。
体重のコントロール、筋力の増強、生活様式の工夫など手術以外の方法も重要です。
しかし、亜脱性股関節症の場合、危険因子の最大のものが臼蓋形成不全、股関節の咬みあわせの浅さという形態異常にあることは忘れてはならないと思います。
最後に、この一文がのぞみ会の皆様の一助になるようにのぞみ、おやじギャグにもならないダジャレで稿を終えます。

あすなろ整形外科 長谷川功